中村明日美子の名作『同級生』の続編にあたる『卒業生』。
高校を卒業する季節を舞台に、草壁光と佐条利人が「恋を続ける」ということに向き合っていく物語です。
恋がはじまる瞬間を描いた前作に対し、『卒業生』では恋を守り、育てる難しさと強さが静かに描かれます。
1. あらすじ(ネタバレなし)
合唱祭をきっかけに惹かれ合った草壁と佐条。
それからのふたりは、少しずつ距離を縮めながら、互いの違いを受け止めていきます。
明るく自由な草壁と、まじめで繊細な佐条。
性格も生き方もまったく違うふたりですが、音楽と恋を通して確かな絆を育んでいきました。
しかし、卒業という現実はふたりに選択を迫ります。
離れること、未来を考えること、そして「この恋をどうしていくのか」。
10代の終わりに訪れる“別れと再会の季節”を通して、
草壁と佐条はそれぞれの成長と向き合うことになるのです。
2. 見どころ① “卒業”という優しい痛み
『卒業生』というタイトルが象徴するように、この物語には旅立ちと喪失の美しさがあります。
卒業は、終わりではなく始まり。
けれど、誰もがどこかに「戻れない時間」の痛みを感じるもの。
中村明日美子の筆致は、そんな感情をわずかな沈黙で描き出します。
一枚の窓、風に揺れるカーテン、夕暮れの教室。
ページの隅々にまで“さよなら”の光が滲んでいて、胸がしめつけられるような静けさが広がります。
3. 見どころ② 草壁と佐条、それぞれの成長
草壁は音楽という夢に真っすぐ進み、
佐条はその姿に焦がれながら、自分自身を見つめ直します。
ふたりの道は同じ方向に伸びているようで、少しずつズレていく。
けれど、そのズレこそが成長の証であり、恋が“現実になる”瞬間なのです。
特に印象的なのは、佐条の変化。
「恋人である前に、ひとりの人間としてどう生きるか」という問いに、彼が静かに答えを見つけていく姿は、まさに青春の核心。
彼の成長は、読者の心にも深く響きます。
4. 見どころ③ 映像化作品の完成度
映画『卒業生』(2016)では、『同級生』に続いて繊細な色彩と音楽が再現されています。
息づかいのような間、夕暮れの光の粒、そしてふたりの声のやり取り。
特別な台詞がなくても心が震えるのは、映像と音が“感情の余白”を見事に描いているから。
漫画を読んでから映画を観ると、草壁と佐条の時間が立体的に感じられるでしょう。
5. まとめ──恋は続いていく
『卒業生』は、恋が終わらないことを描いた物語ではありません。
恋を続けるために、ひとりの人間として強くなることを描いた物語です。
ふたりはまだ若く、これから多くを学んでいきます。
けれどその不器用さこそが、読む人の心にあたたかく残る。
青春の終わりと始まりをつなぐ、静かで美しい“通過儀礼”。
それが『卒業生』の本当の魅力です。
