本記事はネタバレを含みます
『同級生』を読み終えたときの、あの胸の高鳴りを今でも覚えています。
その続きが『卒業生』だと知ったとき、うれしさと少しの不安が混ざりました。
恋の「その後」には、きっと痛みもあるだろうと思ったからです。
けれどページをめくるうちに、私は何度も息をのんでいました。
草壁と佐条の間に流れる沈黙や、すれ違う想いがあまりにも繊細で、
言葉にできないほど美しかったからです。
「好き」だけでは足りない瞬間があるとき
『同級生』では、ただ「好き」という気持ちがすべてでした。
一緒にいられること、笑い合えること、それだけで世界が輝いて見えました。
でも『卒業生』では、“好き”の先にある現実が描かれています。
草壁は夢を追いかけ、佐条はその姿を誇らしく思いながらも、
どこかで「自分はどう生きればいいのか」と悩んでいます。
「好きなのに、うまく言えない」
そんなもどかしさが、ページの余白から伝わってきました。
草壁が明るく笑うたびに、佐条が少し黙り込む。
その小さな間が、痛いほどリアルで、
恋の中にある不安や焦りを思い出してしまいました。
私自身も昔、好きな人の夢を応援したいのに、
自分だけが取り残されるような気がして泣いたことがあります。
『卒業生』を読んでいると、そんな記憶が静かに呼び起こされるようでした。
離れても、心が離れないこと
物語の後半、ふたりが別れ際に交わす言葉。
「ちゃんと、待ってるよ」
その一言を読んだ瞬間、胸が熱くなりました。
短い言葉なのに、信じることの強さと優しさがすべて詰まっているようでした。
派手なドラマも大きな約束もない。
それでもこの作品は、静かな一言で心を震わせてくれます。
“卒業”という言葉が、こんなにも温かく、少し切ない響きを持つことを、
『卒業生』は改めて教えてくれました。
別れの中に希望があって、距離の中に絆がある。
恋を続けることは、相手を信じることなんだと気づかされます。
草壁の優しさと、佐条の強さ
草壁の優しさはいつもまっすぐで、どこまでも明るいです。
でもそのまっすぐさが、ときどき佐条には眩しすぎて、
胸が苦しくなる瞬間もありました。
一方で佐条は、自分の弱さを受け入れながら、
少しずつ大人になっていきます。
草壁に支えられるだけでなく、自分の足で立とうとする。
その姿がとても印象的でした。
恋は、ただ相手に寄りかかることではなく、
“隣に立てるようになること”なのだと感じました。
ふたりの関係が変わっていく様子は、まるで時間そのもののように静かで、
読んでいて心の奥がじんわり温かくなりました。
読み終えて思ったこと
最後のページを閉じたあと、しばらく何もできませんでした。
窓の外の夕日を見ながら、
「きっと彼らは今も、それぞれの場所で生きているんだろうな」
そう思うと、不思議と涙が出そうになりました。
『卒業生』は、恋の物語であると同時に、
“人生の最初の覚悟”を描いた作品だと思います。
好きな人を想いながら、自分も成長していく。
その強さと切なさが、読むたびに心の奥に残ります。
大人になった今だからこそ、
あの春の教室の光が、こんなにもまぶしく感じるのかもしれません。
